映画「タイガーマスク」

ストーリー

 閉院が決まったちびっこハウス最後の遠足は動物園。虎の展示の前で伊達直人は不思議な声を聴く。その声にみちびかれた先に待っていたのは、ミスターX。直人はトラックの荷台に押し込まれ、山奥にある虎の穴日本支部に連れていかれた。

 十年に及ぶ過酷な訓練を生き延びた直人にはブラックタイガーマスクが授けられた。このマスクを着けると、潜在能力が覚醒するのだ。また、同期のダン、ジョーにはそれぞれゴールドとホワイトのタイガーマスクが与えられるのだが、直人が手に入れたブラックこそが最強のマスクだった。Xは直人の身体能力よりも、その知能の高さを最初から注目していたのだ。虎の穴を卒業した者が戦う場は、巨額のブラックマネーが飛び交う闇の闘技場。ギャンブラーの賭けの対象となって真剣勝負をし、勝てば賞金を得る。

 ブラックタイガーマスク直人は、デビュー戦をはなばなしい勝利でかざる。多額の賞金を手にしてダンとともに夜の繁華街へくり出したのだが、帰りのタクシーの窓から再園しているちびっこハウスを見つけた。保母をしている若月ルリ子を見た。

 翌日はゴールドタイガーのダンのデビュー戦。竜の穴のスーパーコングには勝利したものの、乱入したホワイトタイガー・ジョーによって膝を潰されてしまった。そして、闘士として使い物にならなくなったダンはミスターXに暗殺される。虎の穴の冷酷さを知った直人は、ブラックタイガーマスクをXに返し、虎の穴と訣別する。

 行くあてのない直人は、ちびっこハウスを訪ね、ルリ子のとりなしによって無給の非正規職員という待遇で住み込むことになった。平穏な時間が過ぎてゆく。虎の穴から追っ手として放たれたのはジョーだった。ジョーは、ルリ子や直人がみなしごを連れて川へ遊びに行ってる留守にちびっこハウスを放火炎上させてしまう。

 責任を感じた直人は虎の穴日本支部に乗り込む。ダンの残したゴールドのタイガーマスクを装着した直人に対するのは、グレートタイガーマスクに進化したジョー。ミスターXの眼前、二頭の虎戦士の激闘が開始された!

                    

キャスト

伊達直人 ウェンツ瑛士   若月ルリ子 夏菜   ミスターX 哀川翔

釈由美子  温水洋一  勝信  良知信次  遠藤久美子  辻よしなり  藤井貴規

三池崇史  真樹日佐夫

 真樹日佐夫先生は、虎の穴の大幹部でミスターXより上の人物という役どころで出演。梶原一騎原作映画「カラテ大戦争」の主人公としてデビューした俳優真樹日佐夫の遺作となった。映画タイガーマスクは、最後のテロップで、製作中に急逝された真樹先生に追悼の意を献じている。

スタッフ

監督 落合賢   脚本 伊藤秀裕 江良至 落合賢 マイケル ウェルス ショック

音楽 遠藤浩二  撮影 クリス フライリク  アクション監督 小原剛

感想

 伊達直人、若月ルリ子、ミスターXなど、登場人物の名前こそ引き継いでいるが、原作を再現しようとする真摯な姿勢が無い。時代を現在に設定したことで面白さが半減した。ちびっこハウスがありふれた保育園風の様式になったのは仕方ないとしても、虎の穴まで質素でスケールダウンしている。アルプスの絶景の中にあるのではなく、杉の木が植林された里山に廃坑のような入り口がある。虎の穴を象徴する魔神像は無く、ミスターXの部屋に簡単な絵として飾られているだけ。ただし、虎の穴日本支部だという。

 なによりも格闘技を主題におきながら、肉体的な努力がなされていないことが不満。(プロレスという単語は使われない)記憶に新しい映画「あしたのジョー」では美術セット、CGを駆使して時代が再現され、丹下段平役の香川照之や力石徹を演じた伊勢谷友介によって漫画を忠実に実態化せんとする試みが話題になり評価を得た。哀川翔はなぜシルクハットにマントを着けなかったのか?その前に本人がミスターXのイメージに遠い。キャスティングについて言うなら、三人のタイガーマスクを演じる俳優が、格闘士と呼ぶには華奢である。虎の穴で十年鍛えたら、並外れた体格になっているはずである。それを隠すためか、この三人は常にインナーウェアを着込んでいて裸体を晒す場面が無かった。ミスターX役の哀川翔と虎の穴トレーナー役釈由美子は伊達直人らの入所時から卒業まで出演しているのだが、外見に変化が無いのが不自然。アニメでは気にならなかったが、実写になると十年という時間の長さが見えなくなる。なにより、タイガーマスクが肉体を隠したデザインに変更されてしまったことを歓迎するファンはいないだろう。タイガーマスクファンなら、ジャイアント馬場、アントニオ猪木の肉体を表現できる人材を探してキャスティングするくらいの作業をのぞむ。

 この映画で、名前が無かった若月先生が「あきら先生」と呼ばれていた。兄妹の父である先代ちびっこハウス園長は光太郎とされている。監修に真樹日佐夫先生、協力に高森篤子夫人、辻芙美子夫人の名があることにも鑑み、タイガーマスク研究会としては、若月光太郎、若月晃を公式名称として認定する。