原作漫画のアイアンマスクを見てみる。まず男である。その登場もヘルホークス、死神シルバー、青銅マッスルの後。ブリキ缶の如き簡単な円筒形の仮面に南京錠が付いており、鍵は宇宙プロレス連盟が保管する。タイガーマスク二世に勝てば解錠されるという。亜久竜夫との因縁は無く、むしろアントニオ猪木がその過去を知っていた。猪木と同じ時期にデビューしたキッド・ジャマイカというレスラーで、強いことは強かったが、黒人であるがためチャンスを与えられず不遇を託っていたという。黒人初のWWA世界チャンピオンになったことでKKK団に狙われ行方不明になったベアキャット・ライトあたりがモデルになっていると思われる。アニメ版との共通点は、黒人ということくらい。リタもスラム街で生まれ育った。市が行政執行でスラムの住民を強制退去させようとしていることを知ったリタは、街ごと買い取ろうと思い宇宙プロレス連盟から契約金を受け取り暗殺者になったのだった。
第11話「非情の掟」。手甲の裏に大木も切り裂く鋼鉄の鉤爪を隠し、タイガーマスク二世必殺の使命をおびてリングに上がったアイアンマスク=リタ。しかし、試合の最中に互いの正体を知る。前回「みどりと純子とどっちが好きなの?」と尋ねたのだが、リタこそ竜夫を愛していたのだ。突然、試合を放棄し会場の外へ逃げ出す。監視していた宇宙プロレス連盟の暗殺部隊がリタを追う。阿久竜夫も救出に向うのだが、一足遅れ、リタは裏切り者として殺された。
特筆事項がある。二回しか登場しないリタだが、テーマソングが作られた。作曲菊地俊輔、作詞保富庚午、歌川島和子「リタ」。虎の穴で鍛えたこと、貧しい黒人共同体のために自己を犠牲にしたことなどキャラクター設定が詞に歌いこまれている。本編中でも使用され、コロムビアレコード「タイガーマスク二世」の挿入歌集にもおさめられる。ちょっとしたハカイダーなみの扱い。
第12話「地獄のタカ」。宇宙プロレス連盟の盟主が、その姿を見せることを予告する。日本に送り込まれるのはタッグレスラー・ヘルホークス。阿久竜夫の登場場面はリタの墓前。死んだリタのために日本に墓を作ってやったのだ。よくよく出来た男ではある。
ヘルホークスは、まず、坂口征二・藤波辰巳組と対戦する。ホークスの名の通り空中殺法を得意としているのだが、本当の意味は別にあった。なんと!頭の上にとまらせた鷹を飛ばして攻撃させるのだ。実によく訓練されており、普段は仮面の上で剥製のごとく微動だにしない。超高速で対手レスラーを襲撃すると反則になる5カウント以内に必ず還ってくる。坂口も藤波も、この前代未聞の戦術の前に翻弄される。二人の選手に失明の危険があると判断した猪木は、リングに上がり試合を中止させた。坂口と藤波をヘルホークスを引き立てるやられ役にして、なおかつ実在人物である二人を極力傷つけない配慮がとられた、まことにプロレス的作劇法。ただし、対戦相手を実名としたことは、かえって、ヘルホークスの鷹が頭上で静止しているという仕掛けに信憑性を失わせた。
第13話「長嶋茂雄の千本ノック」。豪華船オイルキング号に乗って、ついにアーマン・ハッサンが来日。やっと、その姿をあらわす。ただし、まだ宇宙プロレス連盟の盟主であることは明かされない。突然の石油王来日に政財界は騒然となり、日の出スポーツまで取材に出かけた。
しかし、今回の目玉はサブタイトル通り長嶋茂雄の登場。日の出スポーツデスクの高校時代の後輩という大胆な設定。亜久竜夫はかつて巨人軍を担当していたので顔見知り。当時の長嶋は巨人監督を解任された後で、プロ野球の現場ははなれていた。 ヘルホークスのことで頭がいっぱいの竜夫は長嶋に千本ノックを懇願する。生きた鷹の襲撃を見切る動体視力を鍛えようというのだ。かつて、ジャイアント馬場がブラックVのミサイル攻撃を破るためにタイガーマスクにノックをした場面の再現なのだが、長嶋茂雄の実名での登場は、やっぱり興奮する。この作品の価値を高めた。余談ではあるが、長嶋茂雄とアントニオ猪木の誕生日は同じである。長嶋が昭和11年2月20日。猪木が昭和18年2月20日。
第14話「不滅のチャンピオンベルト」。千本ノックのシーンのつづきから始まる。長嶋の打球を叩き落とせたことで、阿久竜夫はヘルホークスの鷹攻撃を防ぐ自信がついた。スポーツ漫画のセオリーでは、この直後にでもヘルホークス戦が行われなければならない。原作では、すぐに試合の場面に変る。ところが今回は、タイガーピラミッダーに保管されているピラミッドチャンピオンベルトの来歴についてタイガー二世が猪木に語る話。
虎の穴を卒業し世界武者修行の旅を続ける亜久竜夫は、レスリング発祥の地エジプトを訪れた。四年に一度催されるという影の世界チャンピオン大会に参加するためである。この大会の優勝者はピラミッドチャンピオンベルトを四年間保持することが出来る。このベルトを巻く者こそが真の王者なのだ。ただし、五千年の間、国外に流出することはなかった。ファラオレスリング集団が国外の挑戦者を退け続けてきたのだ。集団の現在の長はサカラという老人。この人も現役レスラー時代、エド・ルイス、ルー・テーズ、力道山の挑戦を受けてベルトを守ったと語る。この大会の参加者は動物のマスクを被る掟がある。亜久竜夫は迷わず虎のマスクを選んだ。タイガーマスク二世誕生の瞬間である。タイガーマスク二世は、この大会で勝ち抜きベルトを得るのだが、決勝で敗れたアシダという者が叛乱を起こす。仲間を煽動しタイガー二世からベルトを奪い返そうとする。サカラ老人は古来の掟に従うことを主張し、ファラオレスリング集団は分裂、あっけなく崩壊した。サカラはタイガーマスク二世阿久竜夫にベルトとともに、集団が伝えてきた宝石を譲り渡した。亜久竜夫は、この宝石を売った金で、タイガーピラミッダー内部のトレーニングマシーンを作った。
竜夫がタイガーマスクになった必然性と、ここまで疑問だった竜夫の財力の理由が語られた回。しかし、どうしてヘルホークスとの試合を延期してまで、ピラミッドチャンピオンベルトがクローズアップされなければならなかったのかというと、スポンサーポピーの商品宣伝のためである。ポピーからは、宇宙プロレス連盟のレスラーのソフビ人形も発売されていた。敵レスラーが何週にも渡って生き残り続ける展開も商品宣伝のためだったかも知れない。
第15話「宇宙プロレス連盟とは?」。猪木・タイガー二世組対ヘルホークス戦の朝。駅の売店の前でスポーツ新聞の売れ行きを見ているデスク。他紙が売れていく後に残っているのはいつも通り日の出スポーツ…というところから一日が始まる。前日夜遅くまでタイガーピラミッダーで鷹対策の仕上げをしていた阿久竜夫は11時過ぎに日の出スポーツに出社。不機嫌なデスクに今夜の阪神×巨人戦を取材するために関西行きを命ぜられた。もちろん、いつも通り他社の記者石松に原稿の代行を頼む。第1話から登場しているキャラクター、この石松さんが持つ雰囲気に味があり、作品に現実性をあたえている。
日本武道館で行われるプロレスを担当するのはみどり。そこで、あすなろのメンバーと純子に遭遇した。竜夫から切符をもらったという。純子に招待券が贈られたことにも嫉妬を感じるみどりだったが、話題の大試合の切符を何枚も手に入れ得たことが不思議である。この回からみどりは竜夫の行動に疑惑を持つようになる。
そして、満員であるはずの会場にも不可解な現象が起こっていた。リングサイドの席が何列も空いているのだ。メーンエベント直前その席に入ってきたのは石油王アーマン・ハッサン一行だった。タイガーマスク二世がピラミッドチャンピオンベルトを披露するとアーマン・ハッサンの目が光る。このベルトの真価を知っているようだ。ついでに、解説席の山本小鉄もピラミッドチャンピオンベルトの伝説は知っていたらしい。試合に先立ち、タイガー二世はエジプト五千年の伝統を受け継ぎ、4年に一度、覆面世界チャンピオン大会を開催すると宣言、会場の観客が沸く。しかし、ここで、そんなことを言わせたら、目前のヘルホークス戦の緊張感が失われてしまう。
幸か不幸か、ヘルホークスとの決戦は凡戦に終らなかった。鷹のスピードをかわす動体視力は獲得したが、ヘルホークスは二羽を同時に飛ばす戦法に出る。鷹への対処だけで手一杯になるが、ルール上の本当の相手はヘルホークスなのだ。めまぐるしい試合展開が描かれる。東映動画の描写力はアニメブームを経て確実に進歩していた。しかし、長嶋との特訓は無駄ではなかった。窮地のタイガー二世の脳裏に『よけるのではなく向っていけ』という叱咤がよみがえる。タイガーマスク二世は、襲い来る鷹に対向し撃墜した。この技をタイガーホークス落としと名付け、ヘルホークスへのフィニッシュはピラミッドサンダークロスというアニメオリジナル技。一本先取した後、2ラウンドは猪木が活躍し卍固めでギブアップを奪い、2−0のストレート勝ち。
試合後、リングの上からタイガー二世はハッサンに宇宙プロレス連盟との関係を問いつめる。ハッサンのこたえは「盟主だ」。さらに次の言葉は日本国を戦慄させた。「日本のプロレスを渡さなければ石油をストップすると言ったら…どうする?」
第16話「ハッサンに迫る亜久竜夫」。ハッサンの一言で日本中が大騒動になる。猪木とタイガー二世は、政財界を代表する大物に呼び出されて、ハッサンの言う通りに従ってくれと言われる。石油王の財力を背景にプロレスを続けることは、けっして悪い条件ではない。なにより、石油価格が高騰すれば国民生活は貧窮する。国民に支持されなければプロレスの興行もできない。しかし、プロレスを軽視し過ぎる口吻に若いタイガー二世は反発した。それでも守られなければならない正義がある!
阿久竜夫はオイルキング号に潜入し、アーマン・ハッサンへのインタビューを決行した。石油輸出をかたにとって日本プロレスの譲渡を迫ることは論理として成立しないと、ペンによって国民に訴えるつもりである。鉄壁のセキュリティーを突破してきたこの新聞記者の勇気と能力に感ずるところを見たハッサンは、接見に応じることにした。竜夫は石油王を相手に卑屈になることなく、逆に「卑怯」と批難する。自尊心を傷つけられたハッサンは、あの発言の真意は、猪木とタイガー二世が負けたときこそ、石油をストップするという意味だったと言い換えた。
このインタビューは翌朝の日の出スポーツに掲載される。もちろん大スクープ。売店でもすぐ売り切れ。この状況に歓喜するデスク。大手柄で褒められる竜夫。第15話冒頭の場面と対になっている。物語には関係ないが、日の出スポーツデスクとアーマン・ハッサンは、大塚周夫が二役で声を演じている。
第17話「回想・プロレスへの道」。日の出スポーツ亜久竜夫のインタビューに応じた返礼にアーマン・ハッサンが要求したことは、タイガーマスク二世に連絡をつけ、深夜の国立競技場へ呼び出すことだった。竜夫はタイガーマスク二世の姿で国立競技場のグランドに立つ。現れたのは、アメリカンフットボールのスター選手を買収して編成したハッサンのプライベートチームの11人だった。ハッサンはこの集団と対決せよと要求する。正義が力に勝つと主張するなら、この戦力を撃破してみせよと言う。身構えるタイガー二世。これが、前回のラストシーンだった。第17話は、その場面から始まるのだが、なぜか、対峙したまま回想シーンに移行する。
不良集団スパイダーに囲まれている、過去の阿久竜夫。場所はニューヨーク。伊達直人の死と正義を貫いた生涯を知った少年竜夫は、孤児院を出てから空手、柔道などの格闘技を習い、レスリング修行を仕上げるためにアメリカに渡った。生活費を稼ぐためにニューヨークポストのメッセンジャーボーイのアルバイトに就く。ここで新聞記者の仕事を覚えた。そのアルバイト代を狙ってきたスパイダーと戦うのだが、スパイダーのボスの父親はニューヨークの権力者。スパイダーに怪我を負わせた竜夫は裁判で重罪を被せられ刑務所に送られる。
そこで保釈金を払って竜夫の身元を引き受けたのが「虎の穴」だったのだ。この虎の穴は一時的に復活しただけで、亜久竜夫を卒業させると、また消滅してしまう。都合のよい設定だ。虎の穴で訓練を受け、タイガーマスク二世とスポーツ新聞の記者の二つの顔を持つ主人公。思えば、新聞記者にして超人ヒーローという設定はスーパーマンだった。古色蒼然たる王道だった。陳腐とも言える。このアニメ的主人公を脚本の山崎晴哉が掘り下げる。その過去を運命のドラマとして詳細に書き込むのだ。この後、阿久竜夫がファラオレスリング集団の主催する、影のチャンピオン大会に出場し、虎のマスクを選ぶ物語につながる。
タイガーマスク二世を生み出すためだけの便宜にしか思えない虎の穴の復活だが、その回想シーンに、重大な描写があることを見逃してはならない。かつてタイガー二世は、虎の穴の死をかけた特訓を生き残るために人を殺したことをアントニオ猪木に懺悔したが、その場面が描かれるのだ。前作においてすら、虎の穴の特訓中、伊達直人が仲間を殺す場面は描かれなかった。虎の穴の暗殺部隊を返り討ちにする話でも、直截に手をくだす描写は避けられた。殺人を犯さないことだけが正義ではないとする主張に、万人の共感は得られるものだろうか?しかし、地獄から甦った悪魔が叫ぶ正義こそが「タイガーマスク」の主題であることに続編のスタッフはぶち当たったのだ。
第18話「罠!ゴング一秒前」国立競技場でのタイガーマスク二世対フットボールチーム。第16話のラストシーンから始まった、この対決は第17話をはさんで、ようやくここで決着が着く。これを「正義と力」の対決であると意味づけたハッサンであるが、タイガー二世が勝っても動揺する様子は見られず次のリアクションは無い。プロレスファンである視聴者は、プロレスとアメリカンフットボールの対決でプロレスが勝ったと寿ぐだけでよいだろう。本放送で観ていた人にとっては、この二週間は長かったろう。
ようやく、宇宙プロレス連盟は次の挑戦者を用意する。死神シルバーと青銅マッスルのタッグチーム。日時は翌日場所は日本武道館。ここまで勝手に決めて、新日本プロレスに通告してきた。猪木はすぐに阿久竜夫に電話をする。竜夫はタイガー二世に連絡すると返事して、別の場所から電話を掛け直す。同時に日の出スポーツの記事にして、スクープの手柄をたてる。ただのプロレスの試合ではないのだ。猪木・タイガー二世組が負けたら、日本への石油輸出がストップするのだから全国民が注目する大スクープ。タイガーマスク二世でありながら新聞記者であるという難しい設定をうまく使いこなしている。当日のプロ野球ナイターの取材は、また石松さんに頼むしかない。
昼間、甲子園で高校野球の取材をしていた竜夫は、かつて、あすなろチームを通じて知り合った中山一郎の法政高校の試合が終了すると同時に、西ノ宮から東京の武道館へ車をとばす。その道中で宇宙プロレス連盟の工作部隊が妨害する。前シリーズで、よくミスターXが使った手口だ。タイガー二世の到着を送らせて放棄試合にする魂胆なのだが、姑息である。なにより、新登場の死神シルバーと青銅マッスルに連盟自体が期待をかけていないことになる。
敵の用意した妨害トラップをかいくぐって、ゴングと同時にタイガーマスク二世はコーナーポストに立つ。変身ヒーローらしいケレンだが、この回の交通妨害作戦もフットボール対決も、全体のストーリー構成に意味を持たない。
原作漫画での死神シルバーと青銅マッスルを見てみる。猪木・タイガー二世組への挑戦は、ピラミッドチャンピオンベルトのエピソードが語られた直後である。試合開始直前の宇宙プロレス連盟の妨害工作は無い。シルバーはアマゾンの吸血人種。マッスルはヒマラヤの雪男。野性の蛮族対スポーツレスリングというのが、この試合のテーマ。野獣のようにナチュラルに強い肉体とルール無視の攻撃に対して、あくまでフェアプレーで対抗する猪木とタイガー二世。タイガーマスク二世は、新必殺技雪崩地獄を、敢えて超巨漢青銅マッスルに仕掛けて勝負を決める。マッスルはこの試合を通じて正義と勇気の心を知った。シルバーの方は、存在感があまり無い。
第19話「死神シルバーの裏切り」。サブタイトルに名前が出るように、アニメではシルバーもクローズアップされる。国立競技場でのフットボール対決のとき、アーマン・ハッサンに侍って観覧していた怪人が死神シルバーだった。タッグマッチでどれほど凶器攻撃を仕掛けても、ルールに徹する猪木とタイガー二世。蛮人ながらその精神に感じるものがあり、マッスルを制して試合を中断させる。
第20話「激走!タイガーハリケーン」。日本チーム打倒の命令を無視した死神シルバーは、宇宙プロレス連盟にとって裏切り者となった。試合会場から脱走するシルバー。その正体はアマゾンの吸血人種ではなく、南アフリカ代表の陸上選手シルバー・コーネルだった。アスリートの誇りにかけて世界陸上競技大会が開催されたオリンピック・スタジアムでタイガーマスク二世に二人だけの決闘を申し込む。
原作からはなれた展開。シルバーとタイガー二世の決闘を宇宙プロレス連盟が許すはずもなく、行動部隊SPIによって阻まれる。銃弾を受け瀕死のシルバー。最後の願いは一緒に来日した婚約者マリアに一目あうこと。タイガー二世は成田空港に向けてスーパーマシン、ハリケーンを激走させた……しかし、車中でシルバーは命を熄え、マリアは一人機上の人となる。野性対文明というテーマで始まったタッグマッチは、発展途上国から先進国を見る視点をシリーズに付加した。誰もが羨望する大富豪アーマン・ハッサンも自国から石油が採掘される以前は貧しい子供だった。先進国の文明を妬み憎んだ。スポーツでの勝利、すなわち肉体による勝利が文明に取り残された者の復讐だった。それを「力」とよぶなら、タイガーマスク二世と作品が主張する「正義」とは何か?複雑なイデオロギーの対立を取り込んで物語は意外な方向に進んでゆくのだ。
第21話「ハッサンの秘密」。あすなろの練習風景から始まる。今回のみ登場のキャラクター、次郎。この少年は守備も打撃も下手で、ために試合でたびたびチームを惨敗させた。この日も簡単な打球をエラーしてしまう。三太郎らは、たまりかねて次郎を排除しようとする。ここで監督である阿久竜夫が激怒した。野球は勝つことだけが目的ではない。体の弱い人もまじえて共に鍛え楽しむものだと教えた。このあと、三太郎の従兄でサッカー日本代表の笹本邦彦とも口論した。竜夫の奨励するスポーツとは、観るものではなく参加するもの。目的は勝つことではなく心身を鍛えること。この理想は野球やサッカーにならあてはまるのだが、タイガーマスクのやっているプロレスは反則ありの危険な勝負。負ければ石油がストップし日本は大混乱に陥る。前作においては、ルリ子ねえさんが幾度となくプロレスは観るだけにして真似をすることを禁止していた。
笹本邦彦がアーマン・ハッサンのプロサッカーチームのテストを受けることを知った竜夫は、救出するために日の出スポーツ記者としてオイルキング号に乗り込む。ふたたび決死のインタビューで対峙するハッサンと竜夫。回想シーンでハッサンの過去が描かれた。ハッサンは独立戦争の少年兵だった。この戦いの中で、父と母と妹を殺された。祖国を植民地にし家族を奪った文明国のとなえる正義とか秩序など信じれない。アーマン・ハッサンの怒りの向うに見えてくるのは、死ととなりあわせの貧困があることなど知らずに平和を満喫する日本人の弛緩した顔だ。
第22話「青銅マッスルを倒せ!」。原作漫画では、対猪木・タイガー二世組のタッグマッチで決着がついた後、シルバーとマッスルはストーリーから消えるのだが、アニメ版では、それぞれのシングルマッチが用意された。原作の連載誌が月刊であるため、毎週放送のアニメは追い越してしまうのだ。次々と現れる怪人レスラーとタイガーマスク二世との戦いを楽しみにしていた視聴者にとっては、この展開の遅さは不満であったろう。ただし、タイガー二世対青銅マッスルのプロレス描写は文句のつける余地が無い。体格の違う相手の攻略法を、アニメ的省略もせずデッサンを崩すこともなく、手堅く、且つ説得性をもって描ききっている。宇宙仮面SF戦のような荒唐無稽の演出が作品の主題にそぐわないことも確認したようだ。東映動画、あるいは日本アニメの作画技術については以降言及しない。
「力が正義ではない 正義が力だ」こう宣言してスタートする「タイガーマスク二世」。日本的情緒に照らして解釈するなら「お金より心が大切」と解釈するのが適当だろう。そこで、敵役には石油採掘の利権で巨万の富を手にした中近東の石油王が配された。彼アーマン・ハッサンは、金の力を背景に、まさに王のように振る舞う。その力に対し、肉体ひとつで戦いを挑むのがタイガーマスクの正義だった。……ところが、死神シルバーと青銅マッスルの野蛮人コンビを登場させたところから、この構図は変化し始める。プロレスルールも格闘技のセオリーも知らず、動物としての闘争本能で襲い来る相手に対して、タイガーマスク二世はフェアプレーを貫く。野性…言い換えれば文明に毒されない人間らしさ(それは子供の心でもある)の象徴だったはずの虎のマスクが、ここでは文化や科学の側にまわる。
ならば、「正義」とは人間社会のルールのことだったのか。そんなちっぽけな意味しか持たないのか。前回はアーマン・ハッサンの少年時代が語られた。砂漠の貧しい祖国を戦車で蹂躙され、爆撃機で家族を殺されたハッサンは文明国を憎むようになる。また、欧米の白人が作った国際社会のルールに敵意をいだく。白人に追従する日本人も同視した。今回は青銅マッスルの通訳ピートの過去が描かれた。ジャングルで父親が虎に襲われる。その虎を猛獣狩りに来ていた二人の白人のハンターがライフル銃で撃った。このとき、白人らは虎を仕留めたことばかりを喜び、瀕死の重傷に喘ぐピートの父を一顧だにしなかったのだ。幼いピートは悲しみとともに白人と文明と銃を呪うようになった。このアニメを観る視聴者はハッサンとピートに同情するだろう。宮澤賢治は「注文の多い料理店」の中で、趣味でハンティングをする都会者を最も人間性から遠い存在の象徴とした。しかし、その目の前にあるテレビを安価に入手し楽しめる経済構造の背景には、危険な産業廃棄物を法規制の無い貧乏国に持ち込み処理している現実があるのだ。このことは現地人の健康と生命を脅かし、文化や経済の進歩を阻害する要因にもなっている。家電のみならず他の物資、食糧も含めて日本の豊かさは、弱い国の犠牲の上に成立しているのだ。アーマン・ハッサンが虐げられた弱者の怒りの代弁者に見えてきた。タイガーマスク二世は、それをねじ伏せようとするのか?
この回からの新展開として、アパートが取り壊された阿久竜夫が三太郎の家に下宿することになる。そして、亜久竜夫の行動に不審を抱き、調査を始めた他紙のスポーツ記者才賀に宇宙プロレス連盟が接近し始める。
第23話「ブッチャーの挑戦状」。アブドーラ・ザ・ブッチャーがタイガーマスク二世に挑戦を表明する。実際のプロレス業界で、全日本プロレスの契約レスラー、ブッチャーを新日本プロレスが引き抜いたのだ。ブッチャーと個人的な交友があった梶原一騎が後で手引きした疑いもある。アブドーラ・ザ・ブッチャーは全日外人レスラーの看板的存在で、テレビコマーシャルにタレントとして起用されるほどの知名度があった。新日本と全日本の亀裂は決定的になった。馬場は報復として、タイガー・ジェット・シンを引き抜く。ブッチャーは原作漫画には開始早々から登場しており、吸血仮面ザ・バットらとも戦ったりしていたのだが、アニメでは実名が使えず、ビッグ・ウッドという別名で描かれていた。現実世界の動きにアニメのストーリーが引きずられシリーズ作品としての統一性がそこなわれるのだが、リアルタイムの事件が持ち込まれることで緊迫感と興奮が高まった。ビッグ・ウッドの件など代償としては小さい。
日の出スポーツが「ブッチャー物語」の連載を企画し、本人にインタビューする場面がある。そこで回想シーンになり、ガマ・オテナに空手を習い、必殺技“地獄突き”を会得するまでのエピソードが描かれた。「タイガーマスク二世」の原作漫画には無い場面だが、当時、週刊少年サンデーに連載されていた「プロレススーパースター列伝」のブッチャー編のエピソードが引用されている。前作第35話において馬場の過去を語る場面で「ジャイアント台風」が参考にされた前例と同じ。「プロレススーパースター列伝」は梶原一騎の晩年の名作であり、タイガーマスク研究にとっても重大な作品であるので、章を改めて詳述することになろう。
今回も物語は進む。才賀記者にSPIのゲラーが阿久竜夫調査費として現金を渡す場面があり、そして、プロカラテのキング・キリアムスが登場しブッチャーと接近する。キング・キリアムスのモデルはあきらかにウイリー・ウィリアムス。猪木と戦ったウイリーの衝撃は、まだ強烈だった。
第24話「タイガーVSブッチャー」。日の出スポーツの連載「ブッチャー物語」。担当はみどり。今回は、日本遠征中に前妻が浮気して出て行った件。これも苦難の過去ではあるが、子供番組で紹介するにはふさわしからぬエピソード。しかし、アフリカ系の黒人が白人社会で味わった悲惨過ぎる少年時代はテレビアニメでは描けなかったのかも知れない。タイガー二世との試合直前に、宇宙プロレス連盟がブッチャーをスカウトに来る。ブッチャーを宇宙仮面SFら超人レスラーと同レベルの強敵として扱う演出だが、アニメ世界と現実が交錯する「タイガーマスク」ならではの楽しい場面だ。残念ながら(?)ブッチャーは、その誘いを断る。
開始ゴングが鳴り、タイガーマスク二世対アブドーラ・ザ・ブッチャーが激突。ここで次回に続く。 次ページ→