第25話「男の闘い」。タイガー二世対ブッチャーの試合結果は両者リングアウトの引分け。しかし、リングから落ちても闘い続ける両雄の闘志に観客が感動して満場拍手の嵐という演出。実在人物アブドーラ・ザ・ブッチャーへの遠慮が見える。現実のプロレスでは、新日に引き抜いたブッチャーを猪木は容赦なく負かしてしまう。ブッチャーは全日時代ほどの人気者にはなれなかった。
新キャラクターデビルピューマの登場。盟主ハッサンの前で、石柱を砕き折るデモンストレーションを披露。ハッサンは、宇宙プロレス連盟の誘いを断ったブッチャーへの報復をデビルピューマに命じた。そして、キング・キリアムスが都内の公園でブッチャーを襲う。視聴者にピューマの正体がキングであることを匂わせる。あきらかに ウィリー・ウィリアムスがモデルであるキング・キリアムスは、空手攻撃でブッチャーを圧倒。梶原一騎劇画では極真空手が最強なのだ。しかし、決着が着く寸前に亜久竜夫が両者の間に割って入る。ここでもやはり、ブッチャーへの遠慮が見える演出。
第26話「怒りのスタン・ハンセン」。スタン・ハンセンが実名で登場。以前、ハンセンを思わせるワイルド・ハンターという架空のレスラーが宇宙仮面SFと戦ったこともあった。プロレスファンなら実在レスラーがアニメになって動くのは嬉しい。ハンセンは記者会見をひらき宇宙プロレス連盟の挑戦を受けると宣戦。これに応じてデビルピューマが送りこまれてくる。プロレスラー・ピューマとしては、これがデビュー戦。キング・キリアムスであるピューマは、終始ハンセンを圧倒するのだが、ニードロップを仕掛けようとしたとき、股間の急所にパンチを受け失神した。裁定はピューマの反則勝ち。ここでも実在人物ハンセンへの配慮が感じられる。試合をテレビ観戦していたアーマン・ハッサンはピューマが本気を出していないと言う。ハンセンにも気をつかい、このあと、タイガーマスク二世と戦わせなければならないデビルピューマも傷つけまいとする苦しい脚本だ。
そして、三太郎の家に居候になったピートの去就が語られる。竜夫はこのまま日本に暮らして学校へ行くことを勧めるのだが、やはりヒマラヤに帰ると言う。文明社会も未開地も地球の上にかわりはないと達観し強い決意を示すピート。青銅マッスルと一緒に密猟者から動物を守る仕事をしたいと将来の目的を語る。しかし、両親を失い宇宙プロレス連盟に入っていたピートは、村に帰っても当面の生活のあては無い。それはどうすると尋ねられると号泣するピート…登場キャラクターが自分の生き方を模索する姿が丁寧に描かれるアニメ版は原作漫画より優れる。
じつは、現実世界でもっと重大なことが同時に進行していた。ここまで、漫画・アニメ作品としてのみの「タイガーマスク二世」の検証を試みてきたのだが、やはり無視しきれなくなった。すなわち、タイガーマスクが現実の新日本プロレスのリングに登場したのだ。このアイデアは梶原一騎が新日本プロレスにもちかけたものである。自作「タイガーマスク」をリメイクしテレビアニメとしてスタートさせるところまで話は進んだのだが、いまひとつ読者の反応がうすい。漫画原作者生活の経験にてらして、ヒットする予感、手ごたえのようなものが無い。心配した梶原はアニメ「タイガーマスク二世」の宣伝のために、タイガーマスクをリングネームとするレスラーを作ることを提案したのだ。ウィリー・ウィリアムスをアントニオ猪木と戦わせたときから大山倍達・極真会とは距離をおきはじめた梶原だったが、逆に新日本プロレスと近づくことになった。梶原としては「四角いジャングル」連載中に主人公赤星潮のリングネームをつけたキックボクサーを仕立ててリングに上げた過去があり常套手段だったのだが、この発想は、過激な仕掛人とまでいわれた新間寿営業部長には無かった。
リングネームはタイガーマスク。当然、覆面を被せる。問題は誰にやらせるか。梶原の注文は身軽な動きの出来る選手。新間さんの頭に浮かんだのは一人しかいない。その男は、イギリスに遠征中。当地で人気レスラーとして活躍していたのだが、以後の出場契約をすべてキャンセルさせて日本によび還した。会社命令に服従し不本意ながら帰国したその男…佐山聡は、さらに悄然となる。マスクを渡され、それを被って試合に出場せよと言われたのだ。昭和32年生まれの佐山は「タイガーマスク」に熱中した世代ではない。「タイガーマスクは入場時コーナーポストに立つ」など、二三の約束事を聞かされただけで、準備も覚悟も無いままリングにのぞんだ佐山は、メキシカンスタイルの派手な動きにキックをミックスする海外マットでウケた普段通りの試合をこなし、対戦相手ダイナマイトキッドをジャーマンスープレックスで仕留める。
騒然となった。テレビで観戦していた人ももちろん、おそらく梶原一騎も驚いたことだろう。試合前、プロレスファンは誰一人期待していなかった。入場したタイガーマスクを観客は嘲笑で迎えていたのだ。それだけに衝撃は大きかったのである。ミル・マスカラスよりも高く飛び、速くて、上手くて、強かった。アニメキャラクタータイガーマスクを愛していた者も納得し魅了された。好きにならずにいられなかった。タイガーマスクが現実世界に登場するという最高の夢がかなったのだ。余談ながら、アブドーラ・ザ・ブッチャーはタイガーマスク、タイガーマスク二世、そして、佐山聡のタイガーマスクと対戦する。
現実のタイガーマスク(正体が佐山であることは公表されていない。猪木や梶原すら知らないことになっていた)は、またたくまに社会現象になるほどの存在になった。唯一、梶原の計算外だったことは、アニメのタイガーマスク二世より人気者になったことだった。現実がアニメを超えていったのだ。当時の新日本プロレスの放送は生中継で、数週間かけて作られる30分アニメは同時性においてたちうちできない。平面世界のタイガーマスク二世は色褪せて見えてくる。なんと、タイガーマスクは「タイガーマスク二世」の放送終了を早めたのだ。さらに、タイガーマスク佐山聡がプロレス界の救世主になったかというと……以後の経緯についてはここで書くべきではない。まず、アニメ「タイガーマスク二世」の検証を続ける。
第27話「嵐を呼ぶ銃」。タイガーマスクと虎の穴の戦いは、どこまでも私闘であったが、タイガーマスク二世と宇宙プロレス連盟の戦いは石油をかたにとられての日本経済をかけた戦いである。さらに今回より、この戦いの新たな局面が描かれる。ハッサンの国で反政府活動が始まっていたのだ。日本滞在中の事実上の独裁者アーマン・ハッサンを暗殺する目的でジーナという女運動家が来日し、これと亜久竜夫が接触する。また、宇宙プロレス連盟と関係を持ち始めていた才賀記者は、ジーナ暗殺の指令を受けて動揺する。
前作に無いスケールの展開になってきたが。この時期の梶原一騎は「カラテ地獄変」「最強最後のカラテ」などで、空手家の主人公が政権不安定の国の内戦に介入する物語を書いていた。空手の最強を証明するためには、武器、兵器、軍隊相手でも勝たなくてはならないという信念に基づく。恐怖と欲望の渦巻く世界に格闘技の極限を求道していたのだ。
第28話「恐怖のデビルチョップ」。タイガーマスク二世対デビルピューマの試合が描かれるのだが、そのとき、リング外で、切迫した事件が起こっていた。反政府活動家ジーナ暗殺の指令を才賀が拒否すると、宇宙プロレス連盟SPIは人質として妹美奈を誘拐しようとした。この美奈が、工作員に追われながら試合会場に逃げ込んできた。それを見つけたタイガー二世は試合放棄して、リング外の事件を解決させることを優先する。ピューマの正体キング・キリアムスのモデルはウィリー・ウィリアムス。別人として描かれているが、極真空手とプロレスの決着を曖昧にさせたのか?試合規定ではタイガー二世の負けになるので、ついに石油ストップかと日本国民は蒼然となるのだが、ハッサンは、こういうかたちでは終らないと、王者のはからいを見せる。しかし、視聴者には釈然としない憾が残る。
事件を追う阿久竜夫。美奈の救出には成功するが、指令を拒否した才賀は射殺された。いやみなエリート…そんなシンプルなアニメキャラクターとして設定されたであろう才賀は意外な最期を遂げることになるのだ。そして、試合会場から逃走したタイガー二世を追跡してきた有吉みどりは、才賀の最後の現場に立つ竜夫を見つける。物語は終りに近づいてゆく。
第29話「とべ!亜久竜夫」久しぶりに石松さんが登場。石松とみどりの会話で、亜久竜夫は才賀の葬式のために仙台に言ったと語られる。リタのために墓を建てたり、葬儀に必ず参列したりと本当に律儀な男である。脚本の山崎さんの性格を反映しているのかも知れない。仙台から帰ってくると、ジーナを出国させる任務が待っている。本当に多忙な男でもある。プロレスをしている暇も無い。プロレスシーンは藤波辰巳対アンドレ・ザ・ジャイアントの試合が描かれる。実在日本人選手藤波だが、アンドレに敗れてしまう。
ジーナの出国作戦は竜夫の車のトランクに彼女を隠して箱根の山頂に運び、連絡のヘリコプターで横浜港へ送り届けるという手はず。みどりにはSPIの尾行をバイクで撹乱する陽動作戦で援護させる。しかし、宇宙プロレス連盟は一枚上手であった。ヘリで山頂に先回りして竜夫とジーナを取り囲んだ。追跡部隊の中にはデビルピューマもいた。竜夫は敵のヘリを奪って戦うのだが森林の中に墜落する。やられたと見せかけて、その場所に隠していたプラズマGTに乗り換える。そして、タイガーマスク二世に変身……ここへ、別行動をしていたみどりが追ってきた。竜夫の愛車GTがタイガーハリケーンにチェンジする瞬間を見てしまう。竜夫がタイガーマスク二世だったことを知ってしまった。
山頂に戻ってきたが、ジーナは無事であった。デビルピューマが助けたのだ。ジーナを迎えのヘリに乗せた後、ピューマはマスクを取り、空手家キング・キリアムスとしてあらためてタイガーマスク二世に勝負を挑む。この展開は死神シルバーのときと同じである。
第30話「戦慄のバトルロイヤル」キング・キリアムスとタイガーマスク二世の野試合。空手技を封じるためタイガー二世はキングを抱いて谷川へ飛び込むのだが、勝負は着かず。プロレスアニメではあるが極真空手の誇りは守られた。
ジーナは横浜から貨物船で出港。やはり横浜に停泊中のオイルキング号の中では、タイガー二世必殺の計画が立案されていた。すなわち、バトルロイヤル。レスラー総掛かりでタイガー二世を殺す作戦。ミスタースパイダー、ドリルマン、スカルトマン、ザ・スフィンクス、ピエロ魔神、白魔ナイト。これらのレスラーは、今後登場する敵としてテレビマガジンで発表されていたのだが、予定より早く番組の打ち切りが決まったため、バトルロイヤルでまとめて登場することになった。
竜夫がタイガーマスク二世だと知ったみどりは、かつてのルリ子と同じ不安と心配を胸中に秘めることになる。それは強い愛に変ってゆくのだ。
第31話「火を吹くハッサンの怒り」アメリカ代表ミスタースパイダー、西ドイツ代表ドリルマン、メキシコ代表スカルトマン、エジプト代表ザ・スフィンクス、スペイン代表ピエロ魔人、日本代表タイガーマスク二世、そして、宇宙プロレス連盟から白魔ナイト。もちろん初めて聞く名前ばかりなのだが、放送席のアナウンサーによれば超一流のレスラーばかりだという。解説の猪木も「これだけの覆面レスラーが集まることはかつて無かった」と言うのだが、前作からのファンとしては、かつて日本で開催された覆面ワールドリーグ戦のことを思い出してほしかった。試合開始後、総掛かりでタイガー二世を攻撃したときにも、猪木はアメリカで行われたバトルロイヤルで、人気を妬まれたミル・マスカラスが狙われ総掛かりされて骨折までしたと懐古する。現実世界の話を持ち出すのなら、この場にミル・マスカラスがいなくてはならない……しかし、そのとき現実世界ではマスカラスを超える覆面レスラーがついに出現していた。誰でもないタイガーマスクだ。
総攻撃を受けタイガー二世は窮地に追い込まれるのだが、ここで白魔ナイトの自尊心が擡げてくる。急に他のレスラーを蹴散らしタイガー二世と一騎打ちの形にもっていくのだ。宇宙プロレス連盟二番目の実力者と言われるだけに白魔ナイトは強く、タイガー二世は再度ピンチに陥るのだが、観客席の子供らの声援に応えるかのように額の宝石が光る。そして、大技ピラミッドサンダークロスで大逆転。こういう変身ヒーロー的な演出こそタイガーマスク二世にふさわしかった。
ジーナから日の出スポーツの阿久竜夫に国際電話がかかる。ついに革命の火の手は上がった。
漫画版にバトルロイヤルは無い。しいて対応するエピソードをさがすとするなら世界プロレスグランプリ編か。地球上の各地域でトーナメント予選を行い、その上位選手でリーグ戦をして、最強のプロレスラーを決定するという壮大な構想。全員実名で登場する。タイガーマスク二世もまた、このとき実在レスラーになっていた。決勝リーグ第一戦でボブ・バックランドと当たるのだが、その競技体操的動きはあきらかに佐山タイガーを意識した描写である。
しかし、世界プロレスグランプリは、そのまま、壮大な大団円にはならなかった。実際、描かれた試合は決勝リーグの三試合だけ。タイガー二世対バックランド、ブッチャー対ツタンカーメン、タイガー二世対ツタンカーメン。中近東地区代表の謎のマスクマンツタンカーメンの正体を推理することが主旨になる。ツタンカーメンは残酷な空手技と反則戦法が特長なのだが、かつてそんなレスラーがいたことを猪木が思い出す。ほかでもないアーマン・ハッサンその人である。アラブの石油王の御曹司として生まれた境遇を遊興悦楽に浪費するかわりに、少林寺に入山したり、日本で空手を習ったりと、格闘技修行に没頭したのだ。そして、その技を試すためだけにプロレスのリングに上がり残忍な欲望を満たしていた男。それがレスラー、アーマン・ハッサンだった。マスクを賭けた直接対決でツタンカーメンを倒したタイガー二世は、約束通り素顔をあばこうとするが、ここでカーメンのマスクから毒ガスが噴射される。古代エジプトの謎をあばこうとする者には呪いがかけられるという趣向だが、これで正体はわからないまま。さらに、世界プロレスグランプリの結果もうやむやに終る。
第32話「高鳴る決戦のゴング」全編を通して雪が降る。昭和57年冬。東京に降る雪は人にふるさとや子供時代のことを思い出させる。ささやかな、かっこの誕生日会。仏壇の中の母の写真に成長を報告するかっこ。「おかあちゃん」と呼びかけたあと泣き出してしまった。三太郎も父を亡くしている。一也は両親ともいない。にぎやかに始まった誕生日会もしんみりと終った。阿久竜夫の足はいつのまにかちびっこハウスにむかっていた。みなしごらの元気な歌声を聞き、ルリ子らしき人の影を見て、何も言わずに立ち去る。
東京に大雪が降った夜は何かが起こる。桜田門外の変、2.26事件も観測史に記録される大雪だったという。胸騒ぎをおぼえたのか、町は大渋滞。タイガーマスク二世の持つピラミッドチャンピオンベルトへの挑戦権を賭けたアンドレ・ザ・ジャイアントと宇宙プロレス連盟ザ・ストレングスの大試合の取材を命じられた日の出スポーツ阿久竜夫記者も首都の渋滞に巻き込まれた。会場に駆けつけたときには試合終了という失態だったのだが、それも仕方がなかった。8分32秒。大巨人アンドレ、史上初のフォール負け!
看護婦立花純子は森田先生という医者とともに東北の無医村へ行くと言う。前作の「虎とへんくつ医者」が思い起こされる。タイガーマスクのテーマは生きていた。
第33話「果てしなき闘いの後に」タイガーマスク二世対ザ・ストレングス。力のかたまりのようなストレングスがタイガー二世を圧倒する。スピニングバックブリーカー、ボーアンドアローバックブリーカー、カナディアンバックブリーカー、恐怖の背骨折り三連発。常人なら絶命するほどの激痛に耐え続けるタイガー二世。そのマスクの下の顔を知る有吉みどりは直視することができなくなり会場から逃げ出した。絶望的な状況の中でタイガー二世が思っていたこと。それは、ストレングスがまったく反則を使わないことだった。その正体に気付いていたタイガー二世は、アーマン・ハッサンなら手段を選ばない残酷な方法でくるはずと予想していたのだ。正しくて強い男なら敬意を抱かざるをえない。そして、ストレングスもタイガー二世の正体が阿久竜夫であることを知っていた。正義のために命を捧げる男に、同じ男なら反則技など使えるはずがない。タイガー二世と試合をした後で、自分を裏切っていった宇宙プロレス連盟のレスラー達の心がようやく理解できた。ストレングスは宇宙プロレス連盟の敗北を宣言して、マスクをとった。
あまりに意外な展開に騒然となる会場。それに応えてタイガーマスク二世もマスクを脱ぐ。アーマン・ハッサン対亜久竜夫、会場のざわめきが静まらないまま試合再開。さらにニュースが飛び込んでくる。ハッサンの国でクーデターが成功したのだ。体力も気力も尽き果てたハッサンの心臓は闘いながら停止してゆく。
日本を救った英雄亜久竜夫は新聞記者に取り囲まれる。会場の外には、有吉みどりが雪の中に立っていた。赤い傘をさして儚く雪に降られているみどりの後ろ姿に手をそえる竜夫。記者達が歩き去る二人を取材することはアントニオ猪木が制してゆるさないのだが、あすなろチームの子供らが走って追いかけていく。「タイガーマスク二世」の物語は静かな雪の夜に消えていった。
月刊少年ポピーは一年もたずに休刊した。「タイガーマスク二世」は講談社の増刊少年マガジンに引き継がれる。隔月で出版されていたのだが、週刊連載が普通という感覚の日本ではその印象は弱くなる。増刊少年マガジンに移籍して以降の展開は、前作が少年マガジンに異動したときと似る。奇抜なオリジナルレスラーではなく、実名の実在レスラーと戦うようになった。ブラックタイガーというキャラクター性の強い好敵手が現れるのだが、梶原一騎と新日本プロレスは、現実のマットにブラックタイガーを登場させて、漫画を絵空ごとでは終らせない。ブラックタイガーの正体はイギリス人レスラー、マーク・ロコだった。真相を書くと、会社(新日本プロレス)が、いい選手はいないかと聞いてきたので、佐山はマーク・ロコを推薦した。会社はマーク・ロコを呼び、ブラックタイガーに仕立てた。プロレスファンとしたら幻滅するような話だが、何よりも佐山自身がびっくりし、会社のやり方に幻滅したのだ。
ブラックタイガーを最後に宇宙プロレス連盟は日本から引き上げる。次なる敵はメキシコルチャリブレ界に設定する。現実のリングでも、タイガーマスクはメキシコの覆面レスラーと戦っていた。覆面レスラー同士の対戦が子供にうけるという、テレビ的な理由にほかならない。しかし、梶原はこれに、覆面レスラー王国メキシコが、そのプライドにかけてタイガーマスクを狙ってきたという壮大な理由を付加した。漫画の方から現実に寄っている。もはや作品とも創作とも呼べない。
そして、唐突に終了した。梶原一騎が関西の暴力団の組長とともに、大阪のホテルの部屋にアントニオ猪木と新間寿部長を軟禁したことが発覚し新聞に報道されたのだ。寛水流空手から手を引けと脅したという。講談社は梶原一騎と手を切る決断をした。それまでにも、編集者が梶原に暴力をふるわれることが再三あったのだ。(漫画家は殴らなかった)梶原一騎は有名人であり、タイガーマスクは当代随一の人気者だった。真相を知らないまま世間は梶原を非難した。タイガーマスクは、そのリングネームを返上し、ザ・タイガーに変えられるのだが、商品化権の問題ですぐに元に戻すなどの慌ただしい事態が続く…。 次ページ→