講談社のテレビマガジン昭和55年11月号に「タイガーマスク」の特集記事が組まれた。放送中の番組の最新情報が掲載される同誌の編集方針に鑑みるとき、10年前に終了したアニメが紹介されることは異例で唐突な感があった。「タイガーマスク」を連載していた講談社なので写真や資料はいくらでもあるのだが、あらたにセル画式のイラストも描き起こされ、虎の穴のレスラーやウルトラタイガードロップなどの解説がなされた。この謎の特集は翌月以降も続く。
プロレス人気が高まっていた時代ではあった。全日本プロレスはミル・マスカラス、アブドーラ・ザ・ブッチャー、テリー・ファンクら外人選手が人気を集めていた。NWAとのパイプが無い新日本プロレスはアントニオ猪木の座長興行のような状態であったが、週刊プロレスの元編集長山本隆さんによると、この時期のプロレスブームのシェアの70パーセントは新日本が占めていたという。これに、国際プロレスの定期テレビ放送も行われていた。また、アニメブームでもあった。東映動画がプロレスアニメの企画を立てることも当然だった。会議の結果であるが、宮田武プロデューサーが語るところによると「タイガーマスク以上のものが考えられなかった」。東映動画の打診を受けて梶原一騎は「タイガーマスク」の続編を書き始める。掲載誌は講談社ではなく少年画報社が創刊した月刊少年ポピーだった。小学館のコロコロコミックと同じA5サイズの漫画誌だった。コロコロコミックが藤子不二雄の旧作原稿をそのまま掲載して本の厚みをかせいでいたように、少年ポピーも藤子不二雄や赤塚不二夫らの旧作でページ数を増やしていた。この新漫画雑誌の目玉が巻頭カラー「タイガーマスク」だったのだ。コロコロコミック同様やはり対象読者は小学生で、副題にひらがなで「ふくめんプロレス王」とついている。作画は宮田淳一。「愛と誠」以後、劇画タッチの作家と組んできた梶原だったが、宮田の画風は児童漫画であった。手慣れた絵だが個性は無い。後に始まるアニメ「タイガーマスク二世」との相違点だけ挙げておく。まず、タイガーマスク二世とは名のっていないこと。その正体はまったく謎のままで、覆面を脱ぐ場面は無い。敵の組織は、宇宙ではなく地下プロレス。そして、ジャイアント馬場が登場する。
講談社テレビマガジンのタイガーマスク特集を見ると、「月曜日〜金曜日 午後5時半〜6時 日本テレビで放送!」とある。東映動画と梶原一騎、そして講談社のあいだでタイガーマスク復活計画を進めていたとき、放送局は決まっていなかったのだろうか?やがてテレビ朝日で始まる「タイガーマスク二世」を盛り上げるために、日本テレビが「タイガーマスク」の再放送をしていたとは考えにくい。それでなくとも、プロレス放送については、日本テレビとテレビ朝日は鋭く対立していた。猪木がいくらアピールしても対馬場戦が実現しなかったのは、両局が譲らなかったためである。
「タイガーマスク二世」の放映開始時期が決定すると、少年ポピーの「タイガーマスク」も「タイガーマスク二世」に題名が変更される。その正体は阿久竜夫。健太ではない。孤児であったという過去があるが、亜久竜夫がいた孤児院はちびっこハウスではなく「こまどり学園」。この総論の第1項で「タイガーマスク」のプロトタイプと仮定した「チャンピオン太」に出てくる孤児院と同名である。中近東の石油王アーマン・ハッサンが作った宇宙プロレス連盟と戦い、負けたら石油の輸入がストップするという物語の基本設定も確立した。放送局がテレビ朝日に決まったので、タイガーマスク二世は新日本プロレスのリングにしかあがらなくなる。またスポンサーであるポピーの提案を受けて、漫画の中にも商品が描かれる。タイガーピラミッダー、ピラミッドチャンピオンベルト、アイアンガー、タイガーハリケーン等々。多少の説明を加える。なぜピラミッドかといえば、当時、ピラミッドの四角錐には不思議なパワーが秘められているという疑似科学が流行していたのだ。UFOや霊魂を取り扱う学研の科学雑誌「ムー」も創刊された。アイアンガーとは鉄の鎧をつけた虎でタイガーマスク二世のスパーリングパートナー。これは商品化されなかった。そして、タイガーハリケーン。このギミックが画期的な玩具として注目を浴びた。市販のGT車が、部品の取り替えなどの操作をせずに、そのままガラッと、虎の顔を模したオープンカーに変るのだ。かなりの好評で、これは番組を離れてポピニカチェンジマシーンシリーズとしてラインナップされていく。なお、ポピニカとはポピーが発売するミニカーのこと。蛇足ながらポピーとはバンダイのキャラクター商品専門事業部が独立した会社。「仮面ライダー」と「マジンガーZ」の大ヒットで同事業部がバンダイの中で突出してしまったのだ。やがて、ガンダムプラモがバンダイの主力商品になると、ポピーを分離させておく必要が無くなり、現在は合併している。
タイガーマスク二世の正体・亜久竜夫について。前作からのファンなら、この役は健太でなくてはならない。テレビマガジンのイラスト記事では「テレビで初代タイガーのしあいをみる、少年時代の亜久竜夫。」として、健太に酷似した子供が描かれている。(背後にガボテンとヨシ坊)論評を離れて、タイガーマスクを実在人物とする「タイガーマスク研究会」の見解につきあっていただきたい。阿久竜夫とこまどり学園は実名である。この人物の半生を漫画化・テレビ化するにあたって、それぞれ「健太」「ちびっこハウス」という仮名を使った。こうすると、第13項で提起した、昭和20年代に「ちびっこ」なる新語は無かったはずという疑問に解答が出る。
昭和56年4月20日、月曜午後7時、テレビ朝日系。タイガーマスク二世「ほえろ!リングの誓い」が放映される。キャラクターデザインは我妻宏。前作では作画監督だった。ちなみに、同じテレビ朝日系で午後7時30分から放送中の長寿アニメ「一休さん」のキャラクターデザインと監修も努めていた。第1話のストーリーはほぼ原作漫画と同じである。原作のファーストシーンは宇宙仮面SFが蔵前国技館の大相撲本場所に出現する。当時の現役横綱北の湖と輪島が実名で登場する。アニメでは、この場面が日本武道館の全日本柔道選手権になった。山中選手という山下泰裕らしいキャラクターが登場する。原作漫画ではまだ出て来ない日の出スポーツの有吉みどりや阿久竜夫、ライバル記者の雑賀がこの大会を取材に来ている。宇宙仮面SFを取り押さえようと試合場の畳に上がろうとする山中選手を阿久竜夫が止めた。宇宙仮面SFの挑戦に対して、馬場と猪木が並んで記者会見に応じるのが原作だが、アニメではアントニオ猪木一人。宇宙仮面SFは、次にアブドーラ・ザ・ブッチャー対ジャンボ鶴田の試合が行われている全日本プロレスの会場に乱入する。鶴田がやられているのを見て、前作の健太に相当するキャラクター・立花一也がリングに上がり、SFに放り投げられる。この一也少年を受け止めて、颯爽と登場するのがタイガーマスク二世。アニメではこの試合が新日本プロレスのワイルド・ハンター(架空のレスラー)対坂口征二に変更された。一也がリングに上がるときのセリフ「ぼくの大好きなジャンボを…云々」が「ぼくの大好きな坂口さんを…」に変っている。なお、一也はみなしごではないが、両親を亡くしており、家計は看護婦の姉が支える。この姉・純子が若月ルリ子のイメージを引き継いでいる。主題歌および音楽は前作と同じく菊池俊輔が担当。しかし、前作にあった強烈な個性が失われている。エンディングもバラードではなく明るいマーチになり、期待を裏切られた。
第2話「虎の穴で鍛えた男」タイガーマスク二世がアントニオ猪木にだけ素性を打ち明ける。原作ではこまどり学園だったが、アニメではちびっこハウスにいたことになっている。ちびっこハウスの回想シーンが描かれる。チャッピー、ヨシ坊、ガボテン、高岡洋子が確認できるが、一人称で語る亜久竜夫は後ろ姿だけ。阿久竜夫=健太である疑惑を示唆しているのか?なお、当時アントニオ猪木の妻であった倍賞美津子も後ろ姿だけで出演。伊達直人の死が新聞で報道されタイガーマスクの正体を知った阿久竜夫は、虎の穴に入門したという。(猪木の前ではマスクを被ったままで、日の出スポーツの阿久記者であることはまだ伏せている)虎の穴は初代タイガーマスクによって壊滅させられた後、一時的に復活。阿久竜夫卒業後、また消滅したことになっている。ここでの猪木は虎の穴についてあまり知らない。旧原作では、虎の穴を壊滅させるため馬場らと共にアルプス山中の本部まで乗り込んでいた。それでは「タイガーマスク二世」がアニメ版の続編かというと、またつながらない。ちびっこハウスの面々がタイガーマスクの正体を知るのは、交通事故で死んだ後ではなく、タイガー・ザ・グレートとの試合中継の最中であった。
タイガーマスク二世は、虎の穴での修行中とはいえ仲間を何人も殺したことを告白する。これは初代ですら一度もはっきりさせたことのない罪障である。脚本は山崎晴哉。初回から最終回まで全33話をこの人が書く。前作の「タイガーマスク」には関わっていないが、梶原作品「巨人の星」と「あしたのジョー」は書いていた。「スペクトルマン」など特撮番組の脚本家としても知られるが、経歴の中で輝くのは名作「ルパン三世カリオストロの城」だろう。
テレビ朝日の月曜午後7時に放送が決定した「タイガーマスク二世」であるが、裏番組にフジテレビで「あしたのジョー2」が放送中だった。同じ梶原原作アニメが競合しないよう調整はできなかったのか?
第3話「マスクをかけた死闘」宇宙仮面SFを三週目まで引っ張る。これは長い。なぜならSFは、「タイガーマスク二世」の放送が決定したときから雑誌に紹介され続けていた。そのマスクデザインは長期間興味をひきつけられるほどの魅力をそなえていない。しかし、脚本の山崎晴哉はこの回以降もSFの後日談を書き続けるのだ。サブタイトルにあるように、二人のレスラーは試合開始前に負けた方がマスクを脱ぐ約束をする。もちろん、SFが負ける。正体はアメリカの宇宙飛行士ヘンリー少佐だった。原作では、初登場のタイガーマスク二世にコブラツイストで締め上げられ、宇宙プロレス連盟の秘密をしゃべりかけたところで、吸血仮面ザ・バットに連れ去られ再戦は無い。正体も不明のまま。吸血仮面ザ・バットは、この再試合の後に出現して同じ役目を果たし、次週につなげる。
作品全体の失敗を象徴する場面がある。試合の中でSFが見せる“宇宙遊泳”なる技。天井照明に足をかけて高速回転することで真空を作り出し、この空間にタイガーマスク二世を吸い上げて窒息寸前に追い込むというもの。あまりに破天荒で物理法則を無視している。アニメでプロレスを描く以上は、現実を超越しなくてはならないと意気込んだのであろうが、視聴者は幻滅した。この時代のプロレスファンが望んでいたものはリアルな格闘技だったのだ。対象視聴者をその方向に教育したのは、ほかならぬアントニオ猪木と梶原一騎である。なお山崎晴哉と東映動画は、この後、人間ならざるものにプロレスをやらせるアニメ「キン肉マン」で大成功をおさめることを付記しておく。
第4話「血を吸われた虎」宇宙仮面SFの盟主による判決と処刑の場面から始まる。超絶の体技を見せたSFであったが、タイガーマスク二世に二度の敗北を喫した結果だけが残る。処刑方法は数頭のライオンどもがいる地下室に落とされ食い殺さすというもの。哀れな悲鳴とともにSFは絶命したが、虎の穴の卒業生だったらこの状況から生還するはず?
SFのデモンストレーションは全日本柔道選手権乱入だったが、第二のレスラー吸血仮面ザ・バットのデモンストレーションは、ビッグ・ウッド襲撃。ホテルの部屋に潜入し、帰ってきたところを襲った。ビッグ・ウッドは人気レスラーアブドーラ・ザ・ブッチャーに似ているが、原作漫画ではブッチャーその人が襲われている。ブッチャーと梶原一騎には親交があったが、当時は全日本プロレスと契約していた。新日本プロレスの試合を放送していたテレビ朝日の番組には出せなかったのだ。
亜久竜夫の私生活では、立花一也が所属している少年野球チーム「あすなろ」のコーチを引き受けることになる。子供らの兄ちゃんという要素はタイガーマスクにとって欠かせないものとの判断はあったが、前作とは多少世相が異なるその時代にまた孤児院を描写し、予期せぬクレームを受けることをおそれ、避けたのだ。このチームのメンバーが「二世」のレギュラーキャラクターになる。カッコという女子もいて、これはちびっこハウスのチャッピーにそっくり。
そして、タイガーマスク二世対吸血仮面ザ・バットとの対決。原作では全日本のマットだが、アニメでは当然、新日本のマット。ムエタイ出身のバットはキックとパンチが表の技。しかし、本当の武器はビッグ・ウッド(ブッチャー)からも戦闘能力を奪ったマスクの牙。この牙で噛みつき、血を吸うと見せかけて麻酔薬を注入するのだ。前作覆面ワールドリーグ戦に登場した虎の穴レスラー、ドラキュラと同じギミックなので、意外性は無い。ところが、タイガーマスク二世は、この攻撃に抗しきれず意識不明になった。二戦目で早くも敗れたのだが、主人公に失望するよりも、この展開は視聴者を物語世界に引き込む。ただし、アニメ独自のものではなく原作通り。
吸血仮面ザ・バットにタイガーマスク二世は負けたのだが、すぐにリターンマッチは行われない。第5話「若者狩り」は新日本プロレス道場でのアントニオ猪木と坂口征二のスパーリング場面はあるものの、プロレスの試合は描かれない。宇宙プロレス連盟の実働部隊SPIのスカウト活動の話。有名な高校生アスリートに莫大な契約金を提示して攫ってゆく。違法性は薄いのだが、野球選手やサッカー選手を目指している高校生を金の魅力でプロレスラーにしようとするところに問題がある。中山一郎は高校野球部の投手でプロ野球選手を目指していたが、母親が病に倒れたため、その医療費と弟妹を含めた家族の生活費を得るために退学し、工場へ働きに出ていた。じつに中山一郎こそ、あすなろチームの前任コーチだったのだ。亜久竜夫はあすなろの子供らを介して一郎を知る。肉体的にすぐれた若者をもとめていたSPIは一郎こそ恰好の標的とした。貧しい母子家庭で、母親が病気になるという図式は前作での高岡拳太郎の家族を思い出させる。ただし、一郎はレギュラーキャラクターにはならず、登場は今回かぎり。阿久竜夫はタイガーマスク二世として実力行使で一郎を奪回し、多額の金を恵んで復学させた。視聴者としてはデビューして2戦しかしていないタイガーマスク二世なのに裕福なヒーローであるなという感慨が残る。たとえば仮面ライダーなら、目前の危機からはその戦闘能力で救出するが、以降の生活費の面倒まではみない。あと一点は、プロレスをテーマとしたアニメなのに、プロ野球選手志望の者をプロレスに導けないことが限界であり、なんともリアルである。衆目の中で裸になり血を流して戦うプロレスラーには暗い哀しみがつきまとう。宇宙プロレス連盟のレスラーになる覚悟をしたくらいなら、新日本プロレスのレスラーとして給料をもらい家族を養うという解決法は選択されなかった。
第6話「燃えろ闘魂」は、まったく原作通りの展開。吸血仮面ザ・バットの挑戦をアントニオ猪木が受けて立つ。しかし、タイガーマスク二世同様、麻酔液を注入する牙に噛みつかれ意識朦朧となった。そこへタイガーマスク二世が飛び込んで来て、ザ・バットの入れ歯をはずして反則をあばく。変則的な方法だが、これでリベンジを果たした。試合の結果も、一応猪木の勝ちとされ、実在の猪木にも傷がつかない配慮。原作にある重要なせりふ「恩師力道山が作り上げた日本プロレスを、守り抜く義務がある」を、アニメ版猪木にも言わせている。アントニオ猪木とタイガーマスク二世はタッグチームを結成し、宇宙プロレス連盟に対して宣戦するのがラストシーン。原作漫画でも以降、完全に新日本専属のレスラーになってしまう。このあたりで、東映とテレビ朝日との話がまとまったのか?
第7話「タイガーピラミッダーの謎」。前半、阿久竜夫と有吉みどりの会話の中に宇宙仮面SFの名が、まだ出てくる。元宇宙飛行士であったことを明かし、息子ジョージの手術代を得るために宇宙プロレス連盟と契約したことを白状したところでタイガーマスク二世の前から姿を消したSF。その難病の手術を行える医者を探し、日本にいることをつきとめたタイガーマスク二世は、SFことヘンリー少佐の妻に連絡をとり来日費用と手術代を用意する約束をしたというのだ。いくつもの疑問が沸く。アメリカ社会において地位も名誉も高く、給料も多いであろう宇宙飛行士が、どうしてプロレスラーになったのか?原作で語られないこの理由について、アニメ版スタッフは、難病の息子のための莫大な手術費用という、もっともらしいことを付け加えた。第5話では、プロ野球選手よりプロレスラーの地位は低いものとし、今回では宇宙飛行士より低いものとなっている。プロレスアニメなら、何故、リングで最強の男こそ最高の男なのだと言えないのか?宇宙仮面SFが、さらにつまらない男に見えてくる。また、NASAの宇宙飛行士でも支払えないような金額を立て替えられるタイガーマスク二世は裕福というより世間離れし過ぎている。
このあと、サブタイトルにあるタイガーピラミッダーにアントニオ猪木を連れて行く。富士の裾野の樹海の中にあり満月の夜だけ見ることができるという。そして、猪木を相手に虎の穴卒業後の経緯を話し始めるタイガーマスク二世。大山倍達のように世界を巡り各国の格闘技の達人と戦ったというのだ。最後の地、南米パタゴニアで年老いた日本人武術家に遭う。前作の嵐虎之介に似た風貌の老武道家(タイガーマスクファンとしてはこの人物は嵐虎之介でなくてはならない!)に、富士の樹海にピラミッドがあることを知らされたのだ。さらに!前作「タイガーマスク」の物語を覆すようなことが、二世の口から語られる。虎の穴が悪役レスラーを養成したのは、金儲けのためではなく、最強の悪役レスラーを作り、それを倒した者を世界最強の男と認定するためだったと言う。この夢をタイガーマスク二世は引き継ぐつもりで、ピラミッド内部に虎の穴なみの数々のトレーニングマシーンを作っていた。それにしても…莫大な金を持っている…。
第8話「血戦!タッグマッチ」。宇宙仮面SF戦の後日談は続く。ヘンリー少佐の妻ナンシーとジョージが来日。受け入れる病院が立花純子の勤め先。都合のよい偶然だが、とくに不自然さは感じない。母親ナンシーはだまっていたのだが、純子の口から、手術費も渡航費用もタイガーマスク二世が出したことを聞き、ジョージは手術を拒む。ジョージにすれば、タイガーマスク二世は父の仇なのだ。ここで我妻宏のキャラクターデザインを検証する。本作では有吉みどりと立花純子とヒロインが二人いる。髪型が違うので混同することはないが、顔はほぼ同じである。前作よりも人体デッサンは現実的になったのだが、顔の似通ったキャラクターが多いことは減点したい。今回の登場キャラクター、ナンシー、ジョージも頭髪が茶色であるだけで外人に見えない。この難点はストーリーや演出にも影響を与える。
この母子とともに、この回で来日する宇宙プロレス連盟の新キャラクターミスター・フー。これは原作に登場しているので、漫画家宮田淳一のデザインであろう。(東映動画側から提示された可能性もある)全く同じ姿の双子のタッグチーム。奇抜な発想と讃えたいが、前作に登場するザ・ミラクルズの二番煎じの感は拭えない。のっぺらぼうのマスクはミスター・ノーだとも言える。
第9話「危うし!日本プロレス」ミスター・フー1,2号対、猪木・タイガー二世組の試合の続き。フーの二人掛かりや凶器攻撃の反則に耐え、タイガーマスク二世はフェアプレイに徹して勝利をおさめた。その姿に感激したジョージは手術を受け入れる。その手術の成功までがこの回で描かれる。
実況アナウンサーは「かつてない流血戦」と叫んでいるが、前作での赤き死の仮面戦や幻のタイガー戦を記憶している視聴者の目には、流血試合と言うには「血が少ない」。フーらの凶器攻撃はマスクの下に鋼鉄の鋲を入れて頭突きをするというもの。これは、虎の穴最初の刺客ブラックパイソンと同じ手口。この攻撃への返し技が額へのドロップキックなのも前タイガーマスクと同じ。リング上の四人の中でただ一人の実在人物アントニオ猪木。番組協力者である猪木にも見せ場を用意しなければならないし、視聴者も猪木がタイガーマスク二世を引き立ててやられ役になることを望んではいない。猪木がタイガー二世に劣らぬ活躍をするため、結果、ミスター・フーは頗る印象の弱いキャラクターに終った。ミスター・フーの正体はNFLのスター選手だったスタール兄弟。
第10話「アイアン・マスクの挑戦」帰国するジョージとその母親を、亜久竜夫と有吉みどりが空港まで見送った場面から始まる。宇宙仮面SFの後日談はここでようやく終る。入れ替わりに空港に降り立ったのが、新キャラクターのリタ。ニューヨークタイムズの記者として、なぜスタール兄弟が宇宙プロレス連盟のミスター・フーになったのかをインタビューに来日した。しかし、本当の目的はミスター・フーの口封じ。すなわち抹殺。リタは宇宙プロレス連盟からの新たな刺客アイアンマスクなのだ。そして、虎の穴出身。亜久竜夫の同窓生だったのだ。今回の脚本の物語展開は本当に上手い。リタはまず、ここでみどりと出会う。みどりは、死地をくぐり抜けた戦友以上の間柄であるリタと竜夫の親密性に嫉妬する。次に、リタは新聞記者として入院中のスタール兄弟を取材。やはり新聞記者である竜夫が同行。病院は立花純子の勤務する東都大学附属病院。純子と話す竜夫の態度に特別な感情があることにリタは気付く。番組開始時から視聴者の疑問と興味の一つであったことをリタは竜夫に尋ねた。「みどりと純子のどっちが好きなの?」そして、同じ女の立場としては、できればみどりを取ってほしいという意味のことを付け加える。ここで阿久竜夫は少年漫画のヒーローらしく、不純な質問に対して憤慨するだけ。
アイアンマスク=リタは、虎の穴時代、あまりに強すぎて他の練習生が女であることに気付かなかったという。非現実的に思えるが、同じ時代、陸上界にフローレンス・ジョイナーという混血のスプリンターが登場した。女子選手としては圧倒的に強かったことに加え、奇矯なコスチュームと奔放な振る舞いが日本でも話題になった。母親が黒人で父親が白人、この組み合わせが遺伝的に優秀な子供を作るといった情報知識も広く伝えられた。リタの皮膚の色も黒人だった。 次ページ→